2013年5月23日(木)19時30分から、東京都新宿区歌舞伎町にあるロフトプラスワンで、自民党の憲法改正草案をテーマにしたトークイベントが行われた。司会を務めた千葉麗子氏が「自民党は憲法改正と言っているが、これから登場するスピーカーたちは『改悪』なのではないかと考えている」と話し、イベントはスタートした。
■出演
マッド・アマノ氏(グラフィック・デザイナー)
梓澤和幸氏(弁護士)
深井剛志氏(弁護士)
五野井郁夫氏(国際政治学者、高千穂大学准教授)
高橋裕行氏(群馬県公立中学国語教諭)
竹内昌義氏(建築家、東北芸術工科大学教授)
千葉麗子氏(インテグラル・ヨーガ講師)
DELI氏(ヒップホップMC)
HIBIKILLA氏(レゲエミュージシャン)
山川健一氏(作家、東北芸術工科大学教授)
■主催 END THE LDP PROJECT
「憲法とはそもそも何か、との視点で、わかりやすく解説することが大切」。まずは深井剛志氏から、こんな発言があった。深井氏は自民党による憲法改正の動きに危機感を抱き、先ごろ、有志グループ「明日の自由を守る若手弁護士の会」を立ち上げ、一般市民向けの啓蒙活動を展開中である。発言は、その折の基本姿勢を語ったものだ。「今の憲法は、国民に対し『これを守りなさい』とは言っていない。国家権力が暴走しないように縛りをかけ、国民の権利を守っているのだ。が、自民党が発表した改憲案は、その前提が無視されており、改憲案の中には、国民に守らせることが列挙されている。そのことを広く伝えていきたい」。
マッド・アマノ氏は、憲法で保障されている「表現の自由」を巡る、辛い体験談を披露した。「2004年に私は、自民党のポスターを茶化す作品を発表した。すると、私のもとに自民党から『通告書』が届いた」。アマノ氏は「自民党は、通告書を送ることに脅迫的効能があると考えていたのだろう」と振り返り、そうした脅迫には、特に恐怖を感じなかったが、これを機に仕事の依頼が激減したと明かした。「痛手だったのは、メディアが萎縮してしまったこと。『アマノを使うと、使った自分たちにも通告書が送られて来る』ということで、どこも私を使おうとしなくなった」。
また、アマノ氏は「さほど知られていない動きだが、目下、文部科学省が管轄する文化庁が音頭を取って、弁護士を集め、パロディー(政治風刺)に規制をかけることを検討しているようだ」と話し、「権力者は、文章で批判されることよりも、漫画などビジュアルで茶化されることを嫌がっている」と説明した。
「表現の自由への縛りのかけ方には、いろいろな方法がある」と指摘したのは、五野井郁夫氏。海外の象徴的事例として、「英国では、ビッグベン(国会議事堂)から2キロ以内の場所では、政治的表現が禁じられている」「中国政府にとって不都合なことは、中国の大学で学ばせてはいけない」「プーチン政権をアートパフォーマンスで断じた、ロシアのガールズバンド(プッシー・ライオット)のメンバー3人が禁固刑を受けた」などを挙げ、「自民党は改憲で『表現の自由』を制限しようとしているが、この日本に、こうした弾圧事例を作っていいものか」と客席に問いかけた。
梓澤和幸氏は、まず、自民党の石破茂幹事長を批判。改憲草案の21条の2項(表現の自由がらみ)と9条の2(国防軍同)に関するテレビ出演時の発言に触れ、「石破さんは、自分は戦争に行かず、軍隊を一番上に置いて、それを批判する者は許さないとの趣旨のことを言っていた。実に卑怯だ」と述べた。そして草案の36条(刑罰同)について、「自民党の草案は、現行憲法の『拷問および残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる』から『絶対に』を削除した」と強調すると、グアンタナモ米軍基地で拷問されて半身不随になったアルジャジーラ記者の一件を引き合いに出し、「拷問に道を開いてはならない」と語気を強めた。
イベント後半では、DELI氏が発言に力を込めた。「一般市民が、憲法改正の問題を考える場合、どこまで自分の問題に引き寄せられるかがカギ」とし、「21条2項は表現の自由に関するもので、これは自分の問題」と述べると、「音楽ならではの、同じ思いの人たちを連帯させる力を、当局が疎ましく思うことは十分に考えられる」と説明した。
また、9条改正については、「軍隊を作って、われわれの子どもの世代に、福島原発の廃炉作業を押しつける狙いが隠されているのではないか」と疑念を示し、集団的自衛権を「米国兵器の在庫処分につき合わされるのは、まっぴら」と切り捨てると、「俺らアーチストの言葉が、ひとつのきっかけになり、憲法改正を巡る議論が盛り上がれば嬉しい。その上で、国民の多くが、9条を変えるべきとの考えでまとまるのなら、変えればいいと思う」。
一方で山川健一氏は「私は60年代終盤の学園紛争の時代から、日本を政治的視点で見続けてきたが、今ほど、危険な局面はない」と力説し、「日本の核武装が、現実味を帯びてきた」との認識を示した。竹内昌義氏が「今、日本維新の会が、かなり右寄りの発言をしているため、安部首相や石破事長の発言がまともに聞こえてしまう」と語ると、「あれは、自民党が維新の会に対し、ああいった発言を要請した結果だろう」と言葉を足した。
この日のトークライブでは、日本国憲法への感謝や愛情表明と受け取れる発言も目立った。高橋裕行氏は「私のように、ある種の問題教師と見なされている人間は、自民党の憲法改正が実現したら、真っ先にクビになるだろう。逆に言えば、これまで日本憲法によって、ことあるごとに守られてきたのだと思う」と話し、山川氏もまた、「憲法は、自分にとって親父やおふくろのような存在。だから、何としても守る」と強調した。【IWJテキストスタッフ・富田/奥松】
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